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11月号 「健康寿命を伸ばすには」

 


人生百年時代、令和七年十月十七日、第81代内閣総理大臣 村山富市さんが百一歳で亡くなりました。眉毛を櫛でとかす映像が流れ、人間百年生きるとあのようになることがあると驚いた次第です。最新のデータ(2024年)では日本人男性の平均寿命は81.09歳、女性は87.13歳となっています。一方で他者に頼らず自立した生活が送れる健康寿命は2022年の調査で男性72.57歳、女性75.45歳であり、結果何らかの介護を要する年数は男性8.52年、女性は11.68年となります。大切なことはこの健康寿命を如何に伸ばすことが出来るかでしょう。ここでは健康寿命の延伸に繋がるであろう二、三の注意点についてお話しします。先ず我々の体のどの部分も、無理をしない範囲で適切に使い続けることが大切だという事です。生物の体というものは、長持ちさせようとして大事に使わずにおくと、長持ちさせたいという願いとは反対に、どんどんと弱って行くものです。この現象を病理学では無為萎縮(disuse atrophy)と言います。例えば骨折などでギプス固定された手足の筋肉は、たとえ栄養補給が十分であったとしても短期間に細って行くものです。また寝たきりの人は、たとえ栄養管理が万全であっても、使わなくなった体や手足の筋肉が驚くほど細ってしまいます。これらの現象は筋肉の細胞に伸縮の力が働かなくなると、筋肉細胞自身がもう自分は必要ないのだと判断してタンパク合成を停止することによって起こるのです。一方で筋肉に縮む力が加わると、筋肉細胞には縮むためのタンパク質を合成しろという信号のスイッチが ON になり、結果筋肉が太く維持されるのです。このように筋肉や骨といった運動器については使い続けることが特に大事であり、毎日の散歩や体操、筋トレを是非行って下さい。一方で認知症との関係では、脳という神経組織についても適切に使い続けることが重要なことに変わりありません。ここで“脳を適切に使い続ける”とはどういうことなのか、具体例を示しましょう。例えば料理をすることは脳を使う最も身近な行為です。先ず何を食べたいかを頭に浮かべる。次に食材をどう調達するかを考える。冷蔵庫の中に今何があって何が不足しているのかをチェックする。家計を考慮して買い物をする。料理の段取りを考える。時間と順序を意識しながら料理を進める、など…。料理とは何と高度で多様な頭のトレーニングであることかと気付かれます。このように脳を使い続けることで脳の機能は維持されます。女性が男性よりも長生きである理由の一つに、女性は生涯現役、家事を担って料理をし、脳を使い続ける機会が男性よりも多いことが考えられます。だから男性も女性も面倒くさがらずに料理をしましょう。以上臓器組織を使い続けることの大切さを説明しました。一方で“使い過ぎ”は問題を起こします。スポーツ選手で使い過ぎによる組織の疲労で骨折が起こることは良く知られています。脳神経に関しては、パソコンやスマホの画面を長時間見るという目の“使い過ぎ”で、視力障害に加えて脳の認知野の機能異常を起こします。結果、“目が疲れた” とか “頭が疲れた”と感じます。現代生活において、視覚、聴覚については適度に休ませることが大切なのです。また健康長寿のために食と睡眠が大切なことは多くのメディアで色々と語られています。ここではわたしが特に大切であると感じている要点について以下に列挙しましょう。先ず多食よりも少食。過食は厳禁。アルコールは百薬の長なるも適量と休肝日を設けることが大切。睡眠は食に勝るほど大切。快便達成は健康の基礎の基礎。体を冷やしてはならない…など。
以上このコラムがみなさんの健康の維持向上に役立つことを願います。


 


一般社団法人右京医師会 土橋 康成

 

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